鈴亀会場の概要 1

日時 平成13年12月1日(土)午後1時30分〜4時30分
於 鈴鹿市労働福祉会館


第1部 基調講演「市町村合併を考える」
《講演のポイント──昇 秀樹氏》
○ 経済的には、ある程度の規模があった方が効率的である。人口10万人までは人口規模が大きくなるほど行政サービスにかかるコストは急激に下がり、それ以上の人口規模になるとゆるやかにコストダウンし、20〜30万人でボトムとなるとの研究結果が出ている。中核都市となりうる30万人を過ぎると県の業務の一部が市におりてくるためだが、岡崎市のように30万人以上の人口があっても中核都市になっていない都市では、わずかだがコストは下がっている。このように経済的には市町村合併をした方が効率がよく、これに異論はないはずである。
○ しかし、市町村の規模が大きくなると住民の小さな声が届きにくくなることが心配されるなど、草の根民主主義という点では合併しない方がよい。経済的な効率と草の根民主主義の2つが調和してはじめて、合併がうまくいくと思う。調和させるためには、合併された市に地区議会を置き、都市内分権を進めることだ。つまり、地区で決められることは、地区で決めようと言うことである。
○ 欧米にはいくつも事例があり、ベルリンでは都市全体の議会の他に区議会があり、その区議会議員はボランティアか、少額の日当を支払う程度である。ストックホルムは70万人の人口だが、地区議会が20くらい置かれており、市の予算の7割は地区議会に割り当てられる。市役所本体の予算は3割程度である。日本でも、都市計画など分野が限られているが都市内分権の事例はある。神戸市や宝塚市では、まちづくり協議会で都市計画を進めており、中野区や目黒区、三鷹市などでは環境や福祉の分野で、住区協議会において協議を行っている。このように、その地区で決めたことを最大限尊重し、都市全体としてまちづくりを進めることが大事である。名古屋市では、区はおいてあるが、あくまでも出先機関であって区長の選挙などはしていない。
○ 合併特例法によって、合併後、旧市町村単位で地域審議会を設置できるようになっており、地域で判断し、地域審議会でよければそれを活用、駄目ならば選挙をして議会を設けてはどうだろうか。もちろん、そのときの議員はボランティアである。
○ このような市町村合併と都市内分権をセットで考えるならば、経済的な効率化と草の根民主主義はともに担保でき、その条件のもとであれば市町村合併は進めるべきである。ただし、当然、全国一律には無理だろう。政府与党案で1,000自治体、人口10万人程と言っているが、中には、合併しても小さな規模の市ができると思われる。それはそれでいいのではないか。自由党は300自治体にすべきと言っており、細川さんは江戸時代の藩数が300程であったのになぞらえて廃県置藩と言っているが、市町村合併のあと都道府県をどうするのか検討は政府レベルで進められている。県の合併や道州制の検討も当然していかなければならない。
○ 市町村合併の議論の背景は大きく3つある。1つ目は、住民の活動範囲との関係である。明治の大合併の時は徒歩で、昭和の大合併の時は自転車で、役場に行けることを想定していた。平成の合併では車ということになる。交通通信手段の発達によって日常生活圏が大きくなる一方、役場は、住民に対してサービスを提供する装置として捉えることができるから、主権者でありスポンサーである住民の活動範囲が広がったのなら、装置の提供範囲も拡大すべきという考えである。
○ 2つ目は、市町村の担当している仕事との関係である。昭和の大合併が行われた一番の要因は、中学校を市町村で担当するためである。50人学級で、科目数に合わせた9クラス、合計450人の中学生がいることが効率的である。ここから逆算し、市町村の人口規模は7〜8,000人に合併することが必要であった。
現在で言うなら介護保険であり、介護保険は市町村が保険者となるが、7,000人では保険のリスク分散が十分機能しない。5〜10万人の支持人口がなければならない。特別養護老人ホームも、100床が基準であり、これには人口が5万人以上が最低必要であると旧厚生省も算出している。我々の10人に3人は寝たきりにならざるを得なく、寝たきりになれば3年間介護を受けることになるという研究結果も出ている。そういった時代において、リスク分散ということを考えれば、合併してある程度の人口規模を確保すべきだろう。
○ 3つ目は、非常に大きな理由として、政府が抱える借金の問題である。国債、地方債の666兆円を返済するためには、単純に消費税を10%に上げたとしても、元金だけで66年以上、利子を入れるとおそらく100年かかる計算になる。市町村運営コストにかかる84%は規模で決まるという研究結果がある。それゆえに、行政改革を考えるならば市町村合併の問題は避けて通れない。666兆円の赤字に対処するためには、増税か行政改革しかないだろう。これまで、都市部からの補填で地方はやってきたが、今、都市部の方が債務は大きくなっており、これからの地方財政は自分たちで負担していく割合が大きくなっていくのだということを、しっかりと理解しておかなければならない。

《講演のポイント──今川 晃氏》
○ 経済的なコストのことから言えば市町村合併はいいかもしれないが、自治の面からすればかえって非効率な面があるのではないか。市町村合併は万能薬ではない。つまるところ、住民が元気になるしくみを市町村合併と合わせてどうつくるか、ということにかかってくる。
○ ゴミ処理の問題に関し、ダイオキシンの発生については大規模処理をやらなければならないが、一方で、ゴミの排出量の減少については小さなコミュニティ単位での取り組みが大事である。介護保険に関しても、その規模が大きくなる程リスクヘッジでき、メリットは大きい。しかし、認定を受けられなかった人、十分なサービスを受けられなかった人などに対しては自治体の福祉行政での対応が求められる。現在元気な老人がいつまでも元気でいてもらうには、小さなコミュニティにならざるを得ないのではないか。効率を考えた規模の確保も当然必要であるが、大事なのは広域での取り組みと狭域での取り組みとを、どのようにバランスづけていくかであって、そのしくみとして、昇先生の言う都市内分権で対応していくことも可能だと思う。
○ 市町村合併を考えるにあたっての問題点として3点挙げたい。1点目は、地域の一体性である。これまでの議論は、ややもすると規模論ばかりが先行したり、財政面ばかりに目がいったりしているが、いくら自治体を大きくしても、地域の一体性がなければメリットは生まれない。合併したとしても、旧A市に○○をつくったから旧B市にもつくって欲しい、といった我田引水的なことをしていては、結局のところ何も変わらない。一つの地域、自治体として、このようなまちをつくりたいという共通認識を共有しあえるところと合併をしなければならない。合併特例債を使えば、合併後に必要な施設はできるかもしれないが、3割は自分たちで払わなければならなく、地域の抱える借金は増える。一体感のない合併ならば、本来なら無駄なことに、どんどん出費がかさんでしまうだろう。市町村合併のメリットを活かすには、こんなまちづくりをしたいという考えのもと、どう政策をもっていくのかが一番のポイントである。
○ 2点目は、自治基盤の形成である。2005年3月までの市町村合併の議論は住民がかやの外になりかねないと様々なところで危惧されているが、いいまちをつくるには、住民が可能な限り参画できるしくみをつくることが大事であり、いいまちにしたいという住民の思いがなければ不可能である。福岡県の宗像市、玄海町では、将来の地域づくりを考えるため、行政が35名の人を公募し、将来ビジョンをつくるためのワークショップを開催しながら、住民の力でビジョンづくりを行った。新しいまちをつくるときにそのような方法で行うところはまだまだ少ないが、行政の、住民の力でビジョンをつくって欲しいという考えは大事である。その中から相互理解も生まれ、メンバーから合併後のリーダーも出てくるだろう。住民自身でビジョンをつくろうという基盤もなく、行政レベルだけで合併議論が先行することが心配だ。時間がないと言われることも多いが、まだ1年ある。まだまだ、住民とともに議論できる時間はあるだろう。
○ 3点目は、内発的な産業基盤の形成である。現在、この地域には多くの企業が立地しているが、人口が30万人を越えると企業に事業所税がかかるようになってくる。今の状況で合併が進み人口が30万人を越え事業所税がかかるようになった時、税負担以上のサービスなどが得られれば残るだろうが、場合によってはこの地域から出ていってしまうことも考えられる。国も何らかの対応は考えているようだが、現状の制度のもとではそのような課題もある。あまり国に期待できない時代になってきている。地域産業界として、合併のメリットをどう活かすかという議論を自ら行っていくことも必要だろう。熊本県の天草地域で住民合併協議会が発足しているが、天草地域が生き残るには観光しかないという考えのもと、農、漁、商工、JCなどが一体となった観光システムをつくろうと動き出している。外から降ってくるものに期待するのではなく、地域の特色を生かしながら、自ら産業をつくっていくことが求められているのではないか。そのような活動などから発信されてくるものをさらに取り入れながら、同時にそれを支援していくしくみをつくっていくことが大事である。市町村合併を考えるのと並行して、住民や産業界が元気になる仕組みづくりを考えなければならない。





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