尾鷲会場の概要 1

日時 平成13年10月14日(日)午後1時30分〜4時30分
於 三重県尾鷲庁舎

第1部 基調講演「市町村合併を考える」
《講演のポイント──東 廉氏》
○ 今回の市町村合併は、次のような視点から合併を推進せざるをえないのではないか。
○ 「1 現在の地方行政は財政的に余裕がない。」「2 国は市町村合併を強制する力を持っており、現段階では市町村の自主性を重視することが明言されているが、結果的には半強制的に合併せざるをえないかも知れない。」「3 地方財政を破綻させないためには、歳入、歳出両面でのかなりの効率化を進めなければならない。その際、地方財政の効率化の方法として市町村合併は有効な手段の一つであろう。」
○ 国の財政は、収入に比べ異常な出費で借金が膨らみ、破綻同然である。地方行政も膨大な借金を抱えており地方交付税に頼りきっている。逆に言えば地方交付税が減らされれば地方行政への影響は甚大である。
○ こんなに借金漬けなのにパニックにならないのは、「政府には資金がある」「債務のうち年金については給付を減らすことができるのでは」「民間1400兆円の金融資産を借りている」「年間10兆円の貿易黒字がある」などの理由からだと推測される。しかし、この財政状態に耐えられるのは貯金がある限り、輸出で儲けている限りである。
○ 現状の財政システムでは、紀北地域のような所は、親からの仕送り=地方交付税、がないと食べていくのが難しい地域だろう。しかし、現状では中核都市近郊の町村でも地方交付税への依存度は高く、紀北地域と変わらない、なかには紀北地域以上に地方交付税に頼り切り、また多額の地方債を発行している町村もある。それらの町村では、中核都市の施設を不便なく利用できるにもかかわらず、莫大な費用をかけて図書館やホールなどを整備しているところが多く見られる。効率の面から言えば大変無駄が多く、こういった中核都市近郊の町村への地方交付税のあり方は大きな問題である。
○ 国は財政構造改革の次の手として、おそらく地方交付税の削減を打ち出すのではないか。実際に、今年度から地方交付税特別会計の不足分の半分を自治体名義で個別に借金する方式に変更になった。このような地方交付税の削減は、言わば市町村合併を強制するようなものである。地方交付税を削減された小規模市町村は合併せざるをえない。
○ 自治体は地方交付税の削減に備えて緊縮財政を進めるるとともに、歳入面での増税(特に消費税)を検討、それでも駄目なら大規模なリストラを行うなど、相当痛みを伴う効率化を断行しなければならないだろう。その際、市町村合併も重要な選択肢として、今後の地域のあり方を検討していかなければならない。




《講演のポイント──岩崎恭典氏》
○ 先の東先生からは、財政的な面から今の地方財政の現状をご説明、市町村合併の必要性を述べていただいたが、しかし、「お金」で市町村合併を考えていいのだろうか。目先の利益で考えていいのだろうか。市町村合併の議論が「お金」の点についてのみ語られることが多いので、もう少し慎重に考えてみてはどうか。
○ 地方分権推進一括法が施行されたが、同法によって地方行政の業務内容は大きく変わった。以前は市町村で行っている事業なのに市町村で判断できない事業が多くあった。今ではせいぜい県に相談すればいいようになっている。その時、市町村が判断する基準は「住民がどう考えるか」であって、地域住民の意思が大切である。(地域住民の自己決定権の拡充)
○ 市町村合併を国が誘導しているが、最終的に決めるのは住民のみなさんである。住民の一人ひとりがオープンな情報をもらいながら、検討していかなければならない。市町村合併がゴールではなく、この地域をどうしていくのか考えるいいきっかけではないか。市町村合併のメリット、デメリットという話があるが、メリットをより活かして、デメリットを減らすように考えるのが自治体の仕事だろう。
○ 市町村合併を考えるにあたって、「広域効率」(=広い範囲で取り組んでこそ効率的にできること)と、「狭域有効」(=狭い範囲で取り組んでこそ効果的なサービスが提供できること)の2つの考え方がある。例えば、介護保険事業を考えたとき、要介護認定業務や施設サービス、基盤整備などは広域で効率的に進めるべきだろう。しかし、在宅サービスなどについては、狭い範囲できめ細かなサービスを提供していくべきである。つまり、これは広域でやった方がいい、これは狭域でやった方がいいと、一つひとつきっちりと検討すべきである。しかし、役所の全ての仕事についてそれをやろうと思ったら膨大な作業であり、その膨大な情報を住民のみなさんにぽんと投げて、さあ判断してください、というふうにはいかない。自治体の場合には、審議するためのプロとして自治体議員がいるので、議員と首長等が合併を進めるか進めないか、あるいはそういった資料をもとに一度きっちり検討する。その検討を進めていくなかで、例えば1一市2二町が各々の考えをつきあわせて考える場が必要になるだろう。その場が合併協議会である。市町村合併の是非を含めて公に検討する場が合併協議会であって、合併協議会ができたから市町村合併が進むというものではない。
○ 注意しなければならないのは、あまりにも大きな特例措置、合併特例債などのアメが目の前にぶら下がっていることである。これまでの総合計画は夢を描いていたが、新市町村建設計画は合併特例債などを活用することによって、夢と手段がくっついてくる。これを使わない手はないだろうが、ただし、審議の経過などを住民がしっかりと監視することが重要であり、そうしないとモラルハザードが起こってしまうのではないか。皆さんが関心を持って意見を出していってもらいたい。
○ 新潟県の東頸城郡という主産業を公共事業に頼っている地域で、現在、合併話が持ち上がっている。その地域は6つの市町村の各々の高齢化率が40%から45%の超高齢社会である。そこで合併をし、10年後の合併特例債を使って公共事業が終了する頃にはその地域の半数以上の人が高齢化する。それでは地域の将来ビジョンを描くこともできない。地域の公共事業が10年間生きのこるやめに合併建設計画がつくられてしまう恐れがないだろうか。公共事業で成り立っている地域でなくても、このようなモラルハザードを招かないようにしていかないと困る。
○ 小泉内閣は地方交付税の見直しを構造改革の一つに挙げており、合併特例法における特例債等の優遇措置の内容と矛盾するため、それら優遇措置について内容を翻すことも大いに考えられる。そういったことからも目先のお金だけに目をくらまされて市町村合併を進めるのは危険ではないか。


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