松阪会場の概要 1
日時 平成13年11月25日(日)午後1時30分〜4時30分
於 多気町民文化会館
第1部 基調講演「市町村合併を考える」
《阪上 順夫氏》
○ 財政的側面からみると、市町村合併をしなければ国はやっていけない状況にあり、小泉内閣も構造改革を進めているところである。国と地方を合わせて666兆円の地方債を抱えており、同様に構造改革に取り組まなければならない。地方の改革においては思い切ったインパクトが必要であり、その一番の方法が市町村合併である。また、国は地方交付税等や補助金を見直す方向にあるが、市町村の多くは市町村内から得られる税金だけでは財政をまかなえない。そのためにも市町村の規模を大きくして財政難に対応していかざるを得ない。
○ 21世紀は少子高齢化が着実に進み、日本の総人口も2008年頃から減少に転じる。生産年齢層も減少し、2,050年頃には2人で1人の高齢者を支えることになる。年金、介護、健康保険等の見直しも必要とされている。地方では過疎が進み、若者の流出のため、さらに厳しい状況になる。
○ 現在の東京都西東京市の合併の際には、行財政担当として合併を含めた行財政のあり方を検討し、合併すべきという答申を打ち出した。当市は昭和30年代に大規模な団地開発がなされ人口が急増したが、現在では、急激な高齢化が進み、税収はどんどん減り財政危機になった。これには、周辺の市と一緒になって規模の拡大を図らないと、問題解決できないという結論から、保谷と田無が合併して、西東京市となった。同じような問題はどこの市町村にも共通してある。
○ 日本の市町村は、2度の大きな合併を経て、71,000の市町村が3,200くらいになった。100年強で約20の市町村が集められて現在の市町村になったといえる。平成の大合併では現在の3,000市町村から約1,000市町村へと言われている。中には3,000から300市町村へという人もいる。これまでの大合併は上からの強い力があった。今回は国からの圧力もあるものの、基本的には地域の住民で決めるということである。住民が問題についてどのように考えるかが最も重要となってくる。
○ 市町村合併は、国の構造改革と同様、痛みを伴うものである。市町村の首長、議員、職員の削減など、痛みであり人件費の節減というメリットでもある。それらの事を含めて住民がどのように考えるかが問われている。
○ 松阪市を中心とする地域では2つの合併案がある。1つ目は7市町村(松阪、明和、三雲、飯南、飯高、大台、勢和)、2つ目は9市町村(松阪、明和、三雲、飯南、飯高、大台、勢和、宮川、三雲)の案である。私は嬉野町も加えて人口20万以上の特例市をつくるべきだと思う。「松阪」といえば「松阪牛」が有名であるが、「松阪牛」は実際は嬉野町で飼育されている。嬉野町が合併すれば、産まれも育ちも「松阪」の「松阪牛」ということになる。ただ、「松阪」という名前にはこだわらないで対等に合併すべきである。
○ 合併特例法は平成17年までの時限立法ではあるが、延長されるかもしれない。国が合併を促進する今、長期的な視野に立って合併を進めるべきである。
《早川 鉦二氏》
○ 福島県矢祭町では、議会で今年10月31日に、いかなる市町村とも合併しないことを全会一致で決議した。地方自治の本旨に基づき、矢祭町議会では「国が押しつける市町村合併には賛意できず、先人から受けた郷土を21世紀に生きる子孫に引き継ぐことが使命であり、将来に禍根を残す選択をすべきでないと判断する(要旨)」との宣言を出した。
○ 矢祭町の記として4つのことが書かれている。1つ目は「独立独歩、自立できるまちづくりを推進する」とのことである。合併問題でいろいろな市町村を訪れるが、首長や議員の方からは、国の財政再建のためということに対する怒りの声が多く聞かれる。合併すると全国に誇り得るまちづくりは不可能である。2つ目に、「大領土主義は決して町民の幸福にはつながらず、現状を維持しきめ細かな行政を推進する」とあるが、合併するときめ細かな行政はできない。3つ目に「町は地理的に辺境にあり、合併により過疎がさらに進むことは間違いなく、そのような事態は避けねばならない」とあるが、その通りであり、周辺の市町村は見捨てられる。4つ目に、「昭和の大合併の騒動では血の雨が降り、お互いが離反し、40年過ぎた今日でもその問題は解決しておらず、二度とその轍を踏んではならない」とある。矢祭町の財政力指数は0.22と豊かではないが、その町がこのような決議をしているということである。
○ 岡山市では、近くの倉敷市が合併により岡山市の人口に近づいたため、東瀬戸内の中核市となるべく周辺の11市町村を合併した。しかし、「岡山市の副都心」「東の玄関口」として発展が約束されていた旧西大寺市は、20数年経つと商店街が寂れ元気がなくなった。合併だけが原因ではないが、市町村合併の最大のデメリットは、地区の人が自分の地区のことを考えなくなることである。行政区域の拡大により、自治意識は希薄になる。また、岡山市の福祉は、計画段階における目標をはるかに下回っている。同規模の市と比べても、市民福祉が進んでいない。中核都市を目指す大型プロジェクトに投資したためである。岡山市は現在人口60万だが、市民からすると、人口規模よりも暮らしがどう変わったかが大きな関心事なのである。
○ スウェーデンでは、戦後、2回の市町村合併を経て、コミューン(市町村)の数は289になったが、福祉が進んでいるだけでなく、地方自治もすばらしいと言われている。1つのコミューンの面積が約1,500km2もあるところで、なぜ住民自治が成立するのかという疑問を持ったが、結論として、市民の政治に対する意識、民主主義の歴史、国民の政治に対する信頼の違いを感じた。非常に高い税負担だが、老後の年金、介護などの見返りへの信頼があるので、高くないと考えている。日本とは政治への信頼が全く違う。また、行政の地域へのアプローチも異なる。行政区域が広いと住民が行政に参加できなくなるため、地区の福祉、教育、文化などの行政を住民に委ねる体制をとっている。それでもうまくいかない場合は、逆に分離・独立しているが、その例は10程度と少ない。
○ 市町村合併は住民自治に逆行しているといえる。行政が大きくなるとどうしても官僚的になりがちである。名古屋市では情報公開があまりなされていない。議員の数も減る。役場と住民との政治的な距離も大きくなり、住民の声が小さな声になってしまう。現在の村の単位では、村全体の大きな問題になる事柄でも、合併後の大きな市の中では、小さな地区の中のごく小さな事柄になってしまう。以上を踏まえて、市町村合併は慎重に行うべきである。
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